チベット式

チベットの今、そして深層 by 長田幸康(www.tibet.to)

【本】中央チベット聖地完全ガイド『Jamyang Khyentsé Wangpo's Guide to Central Tibet』by Matthew Akester

前々から気になっていた本を入手。2016年に出版されて、たしか最初はデチェン・ペンパのブログ“High Peak Pure Earth”で目にしたんだと思う。どんな本かというと『Jamyang Khyentsé Wangpo's Guide to Central Tibet』(ジャムヤン・ケンツェ・ワンポの中央チベット案内)。Amazonで買えた。便利な時代になったものだ、と今さら思う。送料が高くて1万円以上したけど。 

Jamyang Khyentse Wangpo's Guide To Central Tibet

Jamyang Khyentse Wangpo's Guide To Central Tibet

 

ジャムヤン・ケンツェ・ワンポというのは19世紀のチベットで、超宗派(リメ)運動をリードした高僧だ。その転生者の1人がジャムヤン・ケンツェ・チュキ・ロドゥで、さらにその転生者の1人が、映画『ザ・カップ 夢のアンテナ』を撮ったゾンサル・ケンツェ・リンポチェだ。

まあそういう宗教方面のことはおいといて、ガイドブックの作り手として個人的に魅かれたのは、中央チベットを網羅した巡礼ガイドを19世紀に書いていたこと。原典は『དབུས་གཙང་གནས་ཡིག་་གནས』。漢訳『卫藏道场胜迹志』があるのはもちろん、何度も英訳されている。で、だいぶ昔、英語・チベット語の対訳本を入手し、愛読していた。

いつだったか、メーリングリスト「リンカ」上で、勝手に和訳を始めたこともあった。が、しばらく進めたところで、すでに誰かが和訳をした、のか、しつつある、のか、そんな噂を聞き、たぶんその誰かは学術方面の方だろうから、きっと美しく訳してくれるのだろうと思って、楽しみに待つことにした。で、その件は結局どうなったのだろう? よくわからない。

その後しばらく忘れていたのは、21世紀に入って、現役(?)チベット人が巡礼ガイドを書くようになり、そちらに興味をひかれたからだ。チュンペー氏とか。

で、今回の『Jamyang Khyentsé Wangpo's Guide to Central Tibet』だ。原典はペチャ(チベット式の経典)にして36ページくらいで、たいした分量ではないものの、記されている僧院・聖地は200以上。ジャムヤン・ケンツェ・ワンポはカムのデルゲ出身だが、中央チベット各地をくまなく訪ね、当時の聖地の様子やちょっとした縁起などを綴っている。なぜかいきなりラデン(レティン)寺から始まるというマニアックな展開も含め、それぞれの記述は短いながらも、昔ながらのチベット人の巡礼の道筋だったり、興味の対象だったりが伺えて楽しめる。

ここに載っている200以上の僧院・聖地に全部行ってやろう。そう考えた人は多いはずだ。が、後半生は世俗を離れて巡礼に捧げるチベット人ならともかく、堅気の外国人で実際にやらかす人は多くはない。それをやってしまったのが著者のMatthew Akesterのようだ。もう、すごいとしか言いようがない。

実は見た目に圧倒されて、内容はまだよく読んでいないのだが、感動するに決まっている。原典は19世紀なので、ただ文字がひたすら並んでいるだけだが、本書には写真や地図も載っている。そして実際に行ってみた直近のお話も含めて超詳しい解説つき。たった一首の五言絶句からNetflixオリジナル連続ドラマが生まれ、シーズン6まで続いてまだ伏線が回収されないような超大作となっている。

まず表紙。

f:id:ilovetibet:20191025222944j:plain

ジャムヤン・ケンツェ・ワンポが巡礼している模様を描いたようだ。これだと大きさがわかりにくいと思うが、下の写真のように、ちょっと置き場に困るサイズだ。

f:id:ilovetibet:20191025223004j:plain

しかも824ページもある。Victor Chanの『Tibet Handbook』1100ページには負けるが、サイズがでかいので(重量が)重くて重くて、くつろぎながら軽い気持ちで読むというわけにはいかなさそうだ。支える手が疲れすぎる。で、うれしいことに、ときどき絵地図が入っていたりする。

f:id:ilovetibet:20191025222950j:plain

あくまで絵地図なので、正確な位置はVictorChanの地図や、GoogleMapで確認したほうがいいだろう。誰が何のために確認するのか知らないが。あと写真もいい。何がいいかというと、ただ行ってきましたという感じではなく……

f:id:ilovetibet:20191025222954j:plain

ヒュー・リチャードソンが撮った昔の写真と対比してみたりして。これはパボンカ寺ですね。こういう新旧対比がけっこうある。これが、いちいち楽しい。そんなありさまで、ページをめくり始めてしまうとキリがないのでこのへんで。できれば全ページpdf化してプリントアウトして読みたいところだ。

↓再掲。興味のある方はぜひ! ロンドンから1週間くらいで届きますよ。

Jamyang Khyentse Wangpo's Guide To Central Tibet

Jamyang Khyentse Wangpo's Guide To Central Tibet

 

あと、少しだけ粒度は粗いものの、同じ雰囲気を漂わせているのが、『The Cultural Monuments of Tibet's Outer Provinces』(by Andreas Gruschke)シリーズ。こちらはカム・アムドを網羅しようとして4巻目までいき、クライマックスだと勝手に期待している四川カム編がまだ出ていない。こちらも超オススメ。1つだけリンクを貼っておく。 

The Cultural Monuments of Tibet's Outer Provinces KHAM vol.2 - The Qinghai Part of Kham

The Cultural Monuments of Tibet's Outer Provinces KHAM vol.2 - The Qinghai Part of Kham