チベット式

チベットの今、そして深層 by 長田幸康(www.tibet.to)

【2008年チベット動乱】よく聞かれる質問集

3月10日以降、チベットのラサなどで起こった「自由なチベット」を求める僧侶や市民の抗議行動に対して、中国当局が武力で鎮圧。多数の死傷者が出ています。
経過のフォローは報道のプロの皆さんに任せるとして、よく聞かれる質問をまとめてみました。
(2008.6.11更新)
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[参考]→【2008年チベット動乱】目撃者の証言集 (1)  / (2)
[参考]→超入門「チベット問題」(I Love Tibet! HP内)
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■「動乱」(暴動)はどこで起こっている?
チベットのラサという町で起こった騒ぎが発端です。
中国の西端にある「チベット西蔵自治区」の区都です。
その後、東隣の青海省四川省甘粛省各地で、それ以上の規模の騒乱と弾圧が続いています。

■「××省」もチベット
チベットはもともと、ヒマラヤ山脈の北に広がるチベット高原ほぼ全体でしたが、中国に組み入れられた後、ラサを中心としたチベット自治区がつくられ、東部は青海省四川省甘粛省雲南省に併合されました。中国や日本のマスコミが「チベット」と言った場合、「チベット自治区」だけを指すことが多いので要注意です。今回の騒乱は自治区だけでなく、チベット人の住む地域全体で起こっています。

■ひとことで言って、どんな「動乱」(暴動)?
チベット人が、中国政府に対して怒っています。

■経緯は?
f:id:ilovetibet:20190503023413j:plain3月10日、数百人の僧侶たちが「自由なチベット」を求めてデモ行進をしました。

中国当局が鎮圧。僧侶らを逮捕。

以降、他の寺や市内各所で抗議行動が起こり、当局が催涙弾で鎮圧。寺院を封鎖。

一般市民も加勢。騒ぎが広まり、放火なども発生。当局が鎮圧。

死者が出たとの報道。中国当局も公式に認める。

中国の情報統制により犠牲者の数など真相は不明のまま。
今も散発的に事件が続いていますし、連れ去られたまま帰って来ない人が大勢います。

 ■テレビで見ると、なんか「暴徒」が暴れてるみたいだけど?
現場を撮影できたのは中国側だけです。当然、人が撃たれたり装甲車が暴れてる映像なんて外に出しません。テレビ番組というのは何か映像を流して時間を埋めないといけないので、ひたすら中国側が提供する映像だけが流れる結果になります。多少解説で補ったところで、残念ながら「暴徒」の姿だけが印象に残ってしまいます。

 ■中国はどんな弾圧をしている?
例えば四川省アバ(Ngawa)州アバ県のキルティ寺に運び込まれたチベット人たちの痛々しい写真から、武器を持たない市民に発砲していることが想像されます。
チベット人権民主センターのページ 【注】正視に耐えない画像が含まれています

 ■そもそも初めのデモの要求は?
Free Tibet」。チベットを、自由にものが言えて、生きていける普通の場所にしてほしい、ということです。

 ■こういう騒ぎはよくあるの?f:id:ilovetibet:20190503024841j:plain

小さな事件はたまにありますが、多数の死者が出てしまったのは1980年終盤以来です。1989年にはラサに1年以上にわたって戒厳令が敷かれました。当時、チベット自治区共産党書記として動乱の制圧にあたったのは、現在の中国国家主席、胡 錦濤氏です。因縁でしょうか。
1988年3月チベットで行なわれたことYouTube動画)

 ■歴史的経緯は?
もう50年以上前のことですが、中国はチベットを武力で併合しました。その過程およびその後、多くのチベット人(一説には120万人)が犠牲になりました。

以来、中国の中でも特に人権や民族文化がおろそかにされる地域となりました。

大量の中国人が移民してきたことによりチベット人は少数派になってしまいました。

チベット人たちが危機感を募らせています。

 ■なぜこのタイミング?f:id:ilovetibet:20190503025052j:plain

中国が北京オリンピックを開こうとしている今、それにふさわしい国かどうか世界中が中国の人権状況に注目しているため、最大にして最後の機会だと位置づけている、のだと思います。実際、聖火リレーが世界中を巡る中で、チベット問題が注目されています。

 ■なぜ3月10日?
1959年、中国軍の侵攻に対してチベット人たちがラサで大規模な抗議行動を起こした記念日だからです。毎年この時期には、規模の差はあれ色々起こります。

 ■なぜラサ?
チベット人が多く集まる中心地。歴代ダライ・ラマ法王以前からチベットの都だからです。

 ■なぜ僧侶?
チベット人は一般に仏教徒です。チベット社会での僧侶の占める役割・影響力は大きく、そのため中国当局から目の敵にされてきました。最大の被害者として、常に最初に声を上げる存在です。今回最初に行動を起こしたのは、チベット仏教界の最高峰であるデプン寺、セラ寺といった有名寺院の僧侶たちでした。

 ■普通のチベット人はどう思っている?f:id:ilovetibet:20190503025223j:plain
何よりも僧侶を乱暴に扱ったことが一般のチベット人の反感を招きました。デモに加勢しただけでなく、放火や略奪などの行為に至った者もいたようです。一般にチベット人は穏やかですが、日頃から中国政府・中国人への不満が鬱積しており、それが爆発してしまったのでしょう。
多くの普通のチベット人は平穏な生活を望んでおり、僧侶たちに同情しつつも、実際には何もできません。それをやると人生や生命を投げ打つことになるのを歴史から学んでいます。
ただ、外の世界にいる人々に注目してほしいと願っています。

 ■デモは計画的?
もちろん自然発生的なものではないでしょう。「高僧の後継者を中国当局の許可制にする」等、中国でのチベット仏教への抑圧は近年厳しさを増しており、仏教界ではずっと不穏な動きが続いていたという伏線もありました。

 ■中国は「ダライ・ラマ集団の策動」とか言ってるけど?
ほとんどのチベット人ダライ・ラマ法王の支持者・信者・ファンなので、ダライ・ラマ集団って言われれば、その通りかもしれませんが、どういう集団なのか中国側から具体的な説明はありません。証拠を残す記録要員を用意していない点から、外国の誰かが仕掛けた可能性は低そうです。

 ダライ・ラマはどうしてる?
1959年以来インドに亡命中なので、直接は何もできません。中国側にも、チベット人にも、暴力を用いないよう呼びかけています。騒乱がおさまらなければ辞任するとまで言ってます。北京五輪の開催にも反対していません。

 チベット人は独立を要求してるの?
ダライ・ラマ法王は独立を要求してはいません。チベット人の(本当の意味での)自治権を求めています。そして、チベット問題を解決するために中国との対話を求めています。
ただし、一般のチベット人の中には、今の中国では自治なんて無理という意見も当然あり、心情的には独立を求める声が強いようです。

 ■「対話」が進んでるらしいけど?
中国とチベット亡命政府との協議が始まっています。しかし、こうした協議は2002年から6回行なわれましたが、実質的な進展はありません。その間「いま交渉中だから中国を刺激しないように」と、世界中のチベットサポートの動きは停滞しました。今回、中国側から協議しようと申し出があったのも、単に騒ぎを抑えて時間稼ぎをするだけの目的かもしれません。少なくとも、密室ではなく、第三国を交えての対話が必要と言えるでしょう。

 ■中国人とチベット人の関係は?
チベットには大勢の中国人(漢民族)が移住し、あるいは出稼ぎとして暮らしています。歴史的な経緯もあり、残念ながら一般にあまり仲がいいとは言えません。

 チベット以外にもチベット人は大勢いる?
1959年にダライ・ラマ法王がインドに亡命した後、約10万人のチベット人がインドやネパールに逃れて難民となりました。そのまま帰国できず、2世・3世の世代が増えている上、今も毎年数百人のチベット人が亡命しています。

 ■ラサと連絡はとれない?
ラサまでの光ファイバー回線を日本のODAで敷いてくれたおかげか、電話もメールも結構つながるようです。もちろん盗聴・監視されているでしょうから、内容には要注意。

 ■何かできることは?
↓のサイトをご覧下さい。さまざまなイベント・アクションの案内、関係各所へのFAXやメールによるアピールの文例等があります。
チベット・サポート・ネットワーク・ジャパン 聖火リレー胡錦濤来日、洞爺湖サミット、そして北京五輪に向けて、各地でチベット関連のイベントが予定されています。

 (時々更新しています。長くなってすみません)
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[行動]→チベット・サポート・ネットワーク・ジャパン ↑各種イベント・アクションの案内、関係各所へのFAX・メールのテンプレート他
[参考]→【2008年チベット動乱】目撃者の証言集 (1)  / (2) [参考]→超入門「チベット問題」(I Love Tibet! HP内)
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消されゆくチベット (集英社新書)

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