チベット式

チベットの今、そして深層 by 長田幸康(www.tibet.to)

【本】『チベットーー祈りの色相、暮らしの色彩』(渡辺一枝)

NHKオンデマンドで昔のドキュメンタリーを見まくっている。で、いま、アレクサンドロス大王の番組を見ているのだが、ナレーションの「アレクサンドロス」にamazon echoが反応しまくっている外出自粛の夜。

さて、おなじみ渡辺一枝さん。昨年出版された『ツァンパで朝食を』もこちらで紹介した。

tibet.hatenablog.jp

そして今年出た『チベットーー祈りの色相、暮らしの色彩』。『ツァンパで朝食を』は30数年の集大成だったが、こちらはそのエッセンスといった感じだ。以前インスタにあげた書影がこちら(↓)。後ろに写っているのは昨年出た『世界の家族/家族の世界』(椎名誠)。同じ新日本出版社で判型も同じということで夫婦連作?

https://www.instagram.com/p/B8i3Z7SA5oA/

OSADA Yukiyasu’s Instagram post: “Now on sale! #Tibet #渡辺一枝さん”

チベットーー祈りの色相、暮らしの色彩』は書名の通り、チベットの文化、生活、信仰などなどにまつわる「色」があふれるフォトエッセイだ。

青空、白壁、草原、川、荒野、寺院、仏像、タルチョ(祈祷旗)……どんなシーンにも「チベットだなあ」と思える色がある。もちろん個別のアイテムで言えば、世界各国に同じようなものもあるだろうが、チベットの強烈な紫外線と、薄い空気のもとで見るとまた違ってくるのだ。とくに陰影。

むかしポジフィルムで撮った写真を見返してみると、空の色が濃すぎて、まあ単に撮影技術の問題なのだろうが、実は本当にそう見えたような気がしている、記憶の中では。例えばこれ。

https://www.instagram.com/p/BJVIEQbg6jF/

OSADA Yukiyasu on Instagram: “#Tibet #Changthang plateau #2001 #涼み用 ていうか #乾燥用”

正直、酸素が薄くて頭も相当まいっている状態なので、感覚も異常だったのだと思う。紫外線で目も痛めているし。でもこんな感じだった。何の話だ。そんなチベットの空気感が、本書で蘇ると言いたかった。そして、チベット人たちのなんだか安心している感じの表情、かまえていない、作為のない佇まいは、一枝さんに撮られているからだと思う。

本書におさめられたシーンの何割かは、ここ20年くらいのチベットの大きな変化のなかで、もう見られなくなっているはず。貴重な記録だ。

チベットーー祈りの色相、暮らしの色彩

チベットーー祈りの色相、暮らしの色彩

  • 作者:渡辺一枝
  • 発売日: 2020/02/14
  • メディア: 単行本
 
世界の家族 家族の世界

世界の家族 家族の世界

  • 作者:椎名 誠
  • 発売日: 2019/01/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

【本】『パンと牢獄 チベット政治犯ドゥンドゥップと妻の亡命ノート』(小川真利枝)

10年にわたって引き裂かれることとなった、チベット人夫婦のドキュメンタリーだ。夫ドゥンドゥップ・ワンチェンが中国当局に逮捕された。妻ラモ・ツォは、異郷インドで唐突にその報を知る。なぜそんなことになったのか、夫が何をしていたのか、彼女は知らなかった。

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2008年、北京でオリンピックが開催された。中国は人権状況などの問題を改善することを約束して、招致に成功したようだ。もちろん何も改善されることはなく、逆に2008年3月にはチベット人による大規模な抗議行動を弾圧。その後、160人以上の焼身抗議を招くこととなった。

その五輪前の2007年10月から2008年3月にかけて、チベット各地で100人以上にインタビューを行い、チベット人たちが本音を語る姿を映像に収めたのがドゥンドゥップ・ワンチェンだ。映像は秘かに持ち出され、25分ほどのドキュメンタリー映画『Leaving Fear Behind』(チベット語で「ジグデル」、邦題「恐怖を乗り越えて」)として世界中で公開された。

↓これは英語版フルバージョン。日本でも、日本語字幕版の上映会が各地で開かれた。

vimeo.com

ドゥンドゥップ・ワンチェンと助手ジグメ・ギャツォは2008年3月に逮捕され、ドゥンドゥップ・ワンチェンは国家政権転覆扇動罪で懲役6年の実刑判決を受けた。

それから2017年のクリスマス、サンフランシスコで再会を果たすまでの間に、この家族に何が起こったのか? ↑の『Leaving Fear Behind』をちょっとだけ見て、ドゥンドゥップ・ワンチェンの人となりを感じた上で読んでいただけると、なおさら心に響くかも。英訳・中国語訳されたのかな。されるといいなと思う。

 

 

【外出自粛】チベットレストラン「タシデレ」のデリバリーモモ

Netflixで『コンテイジョン』を観ながら書いています。ナショジオの『ホット・ゾーン』もまとめて再見したいものです。といったことはともかく、ひさびさインスタのまとめです。

曙橋に(四谷からも行ける)「タシデレ」というチベットレストランがあります。このご時世ということで、デリバリーでモモをオーダーしてみました。念のためですが、モモというのはチベット風の餃子のこと。インド・ネパール料理屋にもありますね。

届いたのがこれ↓

https://www.instagram.com/p/B-tF3lNJeXb/

OSADA Yukiyasu’s Instagram photo: “チベットレストラン&カフェ タシデレからモモが到着☆ #momo #now delivered!! from Tashi Delek, #Tibetan restaurant and cafe in Tokyo #緊急事態宣言”

 

そう。冷凍です。ソースはマサラ味。チベットティーバッグ付きです。できあがりが、こちら↓

https://www.instagram.com/p/B-wcAFyJtLY/

OSADA Yukiyasu on Instagram: “(昨日の続き) 曙橋のチベット料理店「タシデレ」製デリバリーモモのできあがりー☆ 肉汁が◎ #Tibetan MOMOs are ready!! Delivered by Tashi Delek, #Tibetan restaurant in Tokyo. #StayHome…”

モモの包み方やタレは地方によって違います。うちのモモが一番うまいと、どの地方のチベット人も必ず言います。今回オーダーしたのはビーフモモ。小龍包のように肉汁が詰まっていて、いきなり頬張るとアツアツなので要注意です。

デリバリーは↓こちらからオーダーできます。他にもベジモモやシャパレもありますよ。

tibetanfood.thebase.in

「タシデレ」のFacebookはこちらです↓

https://www.facebook.com/tashidelektokyo/

それではお楽しみください〜☆

 

【本】『チベットの宗教図像と信仰の世界』

ちょっと前の話だが、インスタに書影だけ掲載した『チベットの宗教図像と信仰の世界』(風響社)を読んだ。

https://www.instagram.com/p/B5NAtyCgVGP/

『チベットの宗教図像と信仰の世界』(風響社)。Amazonとかにはまだ掲載されてないようだけど、紀伊國屋書店Webに在庫があったので注文したら、すぐ来た!

 

チベットの宗教図像」といっても、いわゆる仏画ではなく、主に「護符」を扱っている。「お札」「お守り」の類だ。国立民族学博物館(民博)には1384点ものチベット木版画コレクションがあり、そのうち7割が護符だという。

チベットではおなじみの護符だが、研究は珍しい。そもそもチベット人自身が体系的に研究したことがないようだ。正統な(?)仏法や仏画の研究者・実践者方面から見ると、護符は民間の迷信の類であり、研究する価値なんてないと思われていたのかもしれない。そこに日本の研究者たち10人が光を当てたのが本書だ。

お札やお守りだけでなく、護符と同じく魔除け的な機能を持つものとして、「タルチョ」に描かれる「ルンタ」、家屋の外壁や竃周辺に描かれるサソリ、六道輪廻図でおなじみの鬼のような怪物、といった図像についても本書で紹介されている。

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いずれもチベットでよく見かけるものにもかかわらず、というか、むしろあまりに身近だからこそ、なんとなくしか意味を知らなかったりする。上の写真はルンタを描いたタルチョ用の版木。

護符もサソリも、一部のルンタの図柄も、仏教が伝来する以前からあった信仰に由来するようだ。そして、チベット人仏教徒の間でも、昔々からの習俗は自然に受け入れられている。「山の神」とか「土地の神」とか、多種多様な悪魔とか、迷信だと言いながらも、あからさまに拒む人はめったにいない。仏教よりもっと深いレイヤーでチベット人の中に根付いているように思える。

たとえば、2008年、地震があった直後、ラサの家々のドアにヤクと羊の護符が貼られ、左回りの卍(つまり仏教とは逆)の図柄があちこちに描かれるようになった、という話(本書の村上大輔さんの項の冒頭)。ラサのような大都会でも、いざとなると、ふだん心の奥底に隠されていた何かがついつい溢れ出してしまうようだ。いい話だなあ。

https://www.instagram.com/p/BTRHA2oAIUj/

The great Stupa of Nangzhig Bon Monastery, Amdo Ngaba, Eastern #Tibet in February 2009

何を恐れ、何を幸せだと感じるのか、チベット人ならではの精神性が、魔除けの護符や図像には詰まっている。仏教に覆い隠されている何かが見えてくる。そこに目をつけた本書は、だから面白い。気軽に勧められるお値段ではないが、研究者10人それぞれの切り口の論考が一気に読める貴重な1冊だ。

チベットの宗教図像と信仰の世界

チベットの宗教図像と信仰の世界

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 風響社
  • 発売日: 2019/12/01
  • メディア: 単行本
 

 

【チベット紀行】1997年と2001年のカム地方タウ(小さな村編)

インスタにアップした写真に解説をつけていこうのコーナー、前回のカム地方タウ(お寺編)に続いて、今回は「村」だ。日本に住んでいるチベット人の(会ったこともない)親族を訪ねてタウに赴き、ニンツォ寺に行ってみたら、案の定、家を知っている坊さんに会えたというのが前回までのあらすじ。さっそく連れて行ってもらった。

タウの町はニャクチュという川沿いに広がっているのだが、目指す村は対岸にある。橋を渡って、上流側に2つ目の村。このあたりは豊かな農村といった趣だ。海抜も3,000mくらいしかなくて気候は温暖。リンゴの産地として有名らしく、折しも秋ということで、あちこちで困ってしまうぐらいリンゴをいただいた。

目指す親戚の家に到着。この写真はまだアップしていなかった。村の中でもちょっと高台にあり、ひときわ格好良い。典型的なカム風の民家だ。

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外側は冷たい風から守ってくれる頑丈な石づくり。内側は太い材木をふんだんに使った木造だ。1階はほぼ納屋になっていて、中庭を取り囲むように、2階に立派な仏間、リビング、ベッドルームなどがある。まわりの森林は伐採されまくって禿山になってしまっているが、この家の裏山だけは比較的、緑が残っており、特別な名家といった気配も漂う。実際その通りなのだが。

1997年、最初に訪ねて行ったときにいたのは、子ども2人。あと、おじさんも1人いた。いきなり訪ねてこられて困ったと思うが、とりあえず、お茶やパンを出していただいた。前回も書いたように、タウの言葉は、カンゼ・デルゲのカム・チベット語とはまったく違い、方言の域を超えていて、よくわからない。が、やがて、ラサ語や漢語を解する親戚たちも集まってきて、家系図づくりなんかを楽しむこともできた。タウの町で雑貨屋をやっていたり、銀行の偉いさんだったり、みなさん各方面で活躍中のようだ。

https://www.instagram.com/p/BN10dfwgqws/

A #Tibetan girl at a small village in Kham Tawu (Ch: Daofu, Sichuan),Eastern #Tibet in 1997

https://www.instagram.com/p/Bv6ij-4A-sl/

In Kube village, Kham Tawu, Eastern #Tibet in 1997 summer

あれ、男の子の写真はアップしてなかったかな。今度がんばって見つけておきますね。このときから20年以上、もう結婚して子どもがいたりするんだろうな。2001年にも再訪しているが、村はあまり変わってなかった気がする。町にはネットカフェができ、お金持ちは携帯電話をもってたりしてたけど。

これは現地の公安さんに教えてもらったのだが、タウにはこんな言い伝えがあるそうだ。昔むかし、東へ東へと向かったタウ人が、日本にたどり着き、村をつくって住んでいる、と。事実、日本に住んでいる数少ないチベット人の中にタウ人がいるわけで、ある意味、当たっていないでもない。徐福伝説のバリエーションだろうが、まさかタウで聞くとは思わなかった。まあ、欧米にはもっとたくさん住んでいるわけだが。たいてい名前に「Towo」と付いている。

そういえば、この家で一番偉いおばあちゃん(その甥っ子が日本在住という続柄だ)が、遠いところから大変だったねえ、といった感じで、おこづかいを50元くれたっけ。なんて当時の情景が、徐々に思い出されてきた。

タウではいろいろな人に会い、あちこちウロウロしていたので、後々ラサでも「お前、タウにいただろ」と、愉快なタウ人たちに声をかけられ、楽しい経験をさせてもらったりした。あと、タウは温泉で有名なのだが、いいところで捕まったりして、楽しむ機会がなかった。チベットには温泉が多く、何カ所かで入っているのだが、これだけ縁の深いタウでは入り損ねてしまった。とても心残りだ。