まったくそういう予感もなしに映画とかを見ていて、思いがけずチベットネタをぶっこまれた時ほど感慨深いものはない。たとえば、『デンジャラス・ビューティー』でサンドラ・ブロックが急に「ダライ・ラマ、ダライ・ラマ、ダライ・ラマ」と口走った、みたいなやつである。その1つがこれ。
ノーブレーキのピストバイクでNYを疾走するメッセンジャーの話『プレミアム・ラッシュ』。主演は『スノーデン』の人だ。以下、ストーリーの核心には触れないが、ネタバレになってしまったら申し訳ない。何も知らないで見たほうが、楽しめるかも。
一見どこにもチベットを連想させる要素はないが、ストーリーの核心に絡む、というか、事件の原因を作り出した人物として「中国人女性ニマ」が登場する。2年前にNYのロースクールに留学し、働きながら学んでいるという設定だ。
ここで、おっ、と思うだろう普通(?)。ニマというのは典型的なチベット人の名前だからだ。意味は「太陽」。日曜日に生まれたという理由で付けられることもある。とはいえ、もしかしたら中国人(漢人)にもニマという名前があるのかもしれない。発音的にヤバそうなので、ないかもしれないが。いずれにせよ名前だけでチベットと関連づけるのは無理がある。実際、彼女は中国語(普通話)を話し、チャイナマフィアコネクションを使ってあれこれやっている。
が、「チベット疑惑」は、それだけではない。ニマがあれこれせざるをえなかった理由が明かされるのだ。
でも、昔書いたチベットの記事がネットに出て
政府が出国を認めなかった。
けっこう唐突に、こう来た。
いったい、ニマはどんな経緯で、どんなチベットの記事を書いたのかが明かされることはない。この一言だけだ。ロースクールに留学するぐらいだから、中国でも法学部で、人権派だったりしたのかも。この映画、撮影は2010年のようなので、2008年のチベット動乱が下敷きになっているのかもしれない。なんて想像は膨らむ。
あと、チャイナマフィア的な大物がニマに「ブッダのご加護を」(「菩萨保佑你」と聞こえる)と言ったりして、仏教を絡めてくるのも興味深い。そう思うと、風貌までチベット人に見えてくる。女優さんは韓国系だが。
真相は定かではないが、ここで「チベット」を絡めることで、ニマに「100%いい人」「最後に報われる役」のフラグが立ったのだと思う。「チベット」の一言は、そういう味わい深い効果のある記号なのだ。で、実際そうなってしまうのがハリウッド映画。ご想像の通りなので安心して見てほしい。
それだけ「チベット」というものの意味がハリウッド方面に広く浸透してるということだろう。何の補足説明もなくても、「チベットの記事」といえば、あ、そういうことね、と通じてしまう。常識でしょ、の世界。そんなこととは関係なしに楽しめる『プレミアム・ラッシュ』をぜひ。以前はAmazon Prime Videoの見放題枠に入っていたが(huluかNetflixだったかも)、今は3日間レンタル190円のようだ。
おまけ。そういうネタ満載の真面目な本です。
世界を魅了するチベット―「少年キム」からリチャード・ギアまで
- 作者: 石濱裕美子
- 出版社/メーカー: 三和書籍
- 発売日: 2010/03/01
- メディア: 単行本
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