チベット式

チベットの今、そして深層 by 長田幸康(www.tibet.to)

【本】東チベットの宗教空間:中国共産党の宗教政策と社会変容(川田進)

ついに出た待望の1冊。

著者が1991年以降、20年以上にわたって東チベット各地に通い、
現地調査を続けてきた集大成だ。


これまで雑誌『火鍋子』の連載等でその一部を読むことはできたが、
こうしてまとまってみると、やはり圧巻。
ラルン、ヤチェンをはじめ、私個人的にもお気に入り地のことばかりなので、
色々と思い出して調べたくなってしまい(笑)、
なかなか読み進められないありさまだ。
というわけで、ここに書くのが遅くなってしまった。

私自身はただ現地に行って適当に歩き回るぐらいしかできなかったので、
こうして1930年代からの歴史と、漢族地域や海外華人社会までも含めた広がり、
さらに2008年動乱と焼身抗議といった今に続く激動の時代を、
体系的に俯瞰できる本書を読むことで、自分の旅の記憶を再編集できる。
という、なんとも面白い体験をさせてもらっている。

私が現地に行った時期はジグメ・プンツォク師もアチュウも存命中であり、
両カリスマなき後の経過は実はあまりフォローできていない。
何かこう、気が抜けた感じで。
先日、テンジン・ギャツォ師が訪日していたようだが、
正直あまりピンときていなかった。
本書によれば、ケンポ・ソダジ師が今後のキーパーソンのようだ。
そのへんも含めて自分の情報をアップデートしていこうと思う。
この方ですね。ケンポ・ソナム・タルゲ。

མཁན་པོ་བསོད་ནམས་དར་རྒྱས་ - Wikipedia

これまで東チベットものでは、
『The Cultural Monuments of Tibet's Outer Provinces』(Andreas Gruschke)の、
四川カム編はいつ出るんだー、というのだけを心待ちにしていたが、
本書を読みながら出典を追うだけでしばらく東チベット世界に耽溺できそうだ。

最後まで自分のことばかり書くが、
本書を読んで現地を再訪するのもまた楽しそうであるし、
著者が書くように、東チベットにまだ眠っている「原石」を探すのもありだ。
堅い話題を扱っているにもかかわらず、旅心をそそられる1冊だった。