チベット式

チベットの今、そして深層 by 長田幸康(www.tibet.to)

【本】『チベットの焼身抗議 太陽を取り戻すために』(中原一博・著、集広舎・刊)

チベットで続いている焼身抗議をテーマにした映画『ルンタ』が上映されている。

池谷薫監督最新作『ルンタ』 オフィシャルサイト

この映画に案内役として登場する中原一博さんの著書がこれ。

チベットの焼身抗議 (太陽を取り戻すために)

チベットの焼身抗議 (太陽を取り戻すために)

 

集広舎による本書の紹介ページはこちら↓

www.shukousha.com

 焼身抗議者143人の記録とともに、
中国共産党チベットをどのように統治し、
いかにチベット人たちが苦しんできたか、
そして、なぜ焼身という手段に訴えざるをえないのか、
映画という枠の中では具体的には伝えられていないことのすべてが記されている。
『ルンタ』の記憶の鮮明なうちに手に取ってほしい1冊だ。

本書のベースとなった電子書籍(pdf)は今も公開されているが、
やはり本という形になって残ることの意味は大きい。
ただリンク先にすぐ飛べたり、全文検索できる利便性もあるので、
電子版も持っててもいいも。

 

【10/4(日)講演】「チベットと日本の現代史 もう一つの戦後70年」西川一三、野元甚蔵さんが生き抜いた時代を考える(by江本嘉伸)

たぶん、めったにない?
面白そうな講演会のご案内です。
明治から昭和にかけて、鎖国状態だったチベットに渡った日本人10人のうち、
野元甚蔵さん、西川一三さんに着目。
生前親交のあった江本嘉伸さんが語ります。
2001年にお二人を招いて開催されたフォーラムの映像も公開されるそうです。

詳しくは下記サイトをどうぞ。
申込みもこちらから。(↓)
http://www.kawachen.org/event.htm#20151004

江本さんはこの本↓の著者。日本とチベットの関係史については第一人者!

西蔵漂泊―チベットに魅せられた十人の日本人〈上〉

西蔵漂泊―チベットに魅せられた十人の日本人〈上〉

 
西蔵漂泊―チベットに魅せられた十人の日本人〈下〉

西蔵漂泊―チベットに魅せられた十人の日本人〈下〉

 

 

 野元甚蔵さんの著書はこれ↓

チベット潜行1939

チベット潜行1939

 

 西川一三さんの紀行を短くまとめたもの↓

秘境西域八年の潜行 抄 (中公文庫BIBLIO)

秘境西域八年の潜行 抄 (中公文庫BIBLIO)

 

 完全版が電子書籍になってますね↓

秘境西域八年の潜行 1 (中公文庫BIBLIO)

秘境西域八年の潜行 1 (中公文庫BIBLIO)

 

あと、お二人が参加したフォーラムの模様と、
チベットに渡った日本人十人の軌跡をまとめたのが↓

チベットと日本の百年―十人は、なぜチベットをめざしたか

チベットと日本の百年―十人は、なぜチベットをめざしたか

 

講演も本も、ぜひお楽しみください♪ 

 

LINEスタンプ「ばなねこ」でネパール地震被災者(チベット難民老人ホーム等)を支援☆

 こんな感じ。

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LINE使ってる方は是非〜☆

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【本】ハバ犬を育てる話(チベット現代文学)

チベットの現代文学が続々と邦訳されている。
その最新刊がこれ。タクプンジャ氏の小説集だ。 
「実験的な手法」とか言われると身構えてしまうが、
短編が多いので、挫折しても次に行けば大丈夫(笑)。
といっても、普通に小説を読んでいる人であれば、
挫折なしに楽しめると思う。訳文もこなれていて、とても読みやすい。

ハバ犬を育てる話 (物語の島 アジア)

ハバ犬を育てる話 (物語の島 アジア)

 

チベットの文学というと、仏教絡み?とも思えるが、
冒頭の表題作「ハバ犬を育てる話」からその予想は裏切られる。
主人公はお役所勤め。
あたりまえだが、現代に生きるチベット人には、
日本人とたいして変わらぬ社会での営みがあり、
上司と部下、家庭、ご近所、男女などなど複雑多様な人間関係がある。

そんな中で、ペットの犬と飼い主の話が普通に進んでいくかと思いきや……。
読んでいくうちに、ある日本の作家を連想したが、
ネタバレになりそうなので、詳しくは書かない。
乞うご期待♪

この不条理なやりとりは何を象徴しているのか?
なんて多民族混住のチベット・アムド地方ならではの事情を
勝手に深読みすることもできるが、
チベット抜きでも、「人」の描き方には引き込まれるはずだ。
むしろチベットについて先入観をもたない人の感想を聞きたいと思う。

最後に、最近日本で刊行されたチベット文学は、こんな感じ。
こちらも是非どうぞ☆

チベット現代文学の曙 ここにも激しく躍動する生きた心臓がある

チベット現代文学の曙 ここにも激しく躍動する生きた心臓がある

 
チベット文学の現在 ティメー・クンデンを探して

チベット文学の現在 ティメー・クンデンを探して

 
チベット文学の新世代 雪を待つ

チベット文学の新世代 雪を待つ

 

【本】東チベットの宗教空間:中国共産党の宗教政策と社会変容(川田進)

ついに出た待望の1冊。

著者が1991年以降、20年以上にわたって東チベット各地に通い、
現地調査を続けてきた集大成だ。


これまで雑誌『火鍋子』の連載等でその一部を読むことはできたが、
こうしてまとまってみると、やはり圧巻。
ラルン、ヤチェンをはじめ、私個人的にもお気に入り地のことばかりなので、
色々と思い出して調べたくなってしまい(笑)、
なかなか読み進められないありさまだ。
というわけで、ここに書くのが遅くなってしまった。

私自身はただ現地に行って適当に歩き回るぐらいしかできなかったので、
こうして1930年代からの歴史と、漢族地域や海外華人社会までも含めた広がり、
さらに2008年動乱と焼身抗議といった今に続く激動の時代を、
体系的に俯瞰できる本書を読むことで、自分の旅の記憶を再編集できる。
という、なんとも面白い体験をさせてもらっている。

私が現地に行った時期はジグメ・プンツォク師もアチュウも存命中であり、
両カリスマなき後の経過は実はあまりフォローできていない。
何かこう、気が抜けた感じで。
先日、テンジン・ギャツォ師が訪日していたようだが、
正直あまりピンときていなかった。
本書によれば、ケンポ・ソダジ師が今後のキーパーソンのようだ。
そのへんも含めて自分の情報をアップデートしていこうと思う。
この方ですね。ケンポ・ソナム・タルゲ。

མཁན་པོ་བསོད་ནམས་དར་རྒྱས་ - Wikipedia

これまで東チベットものでは、
『The Cultural Monuments of Tibet's Outer Provinces』(Andreas Gruschke)の、
四川カム編はいつ出るんだー、というのだけを心待ちにしていたが、
本書を読みながら出典を追うだけでしばらく東チベット世界に耽溺できそうだ。

最後まで自分のことばかり書くが、
本書を読んで現地を再訪するのもまた楽しそうであるし、
著者が書くように、東チベットにまだ眠っている「原石」を探すのもありだ。
堅い話題を扱っているにもかかわらず、旅心をそそられる1冊だった。